2013年1月21日月曜日

年少者日本語教育指導者のための出前講演会

 2013年1月20日、早稲田大学の川上郁雄先生が東広島に来てくださいました。タイトルにあるように『出前』講座です。本当に有り難いことでした。豊富な具体例(子どもの作文など)をまじえての説明、困っていることへの具体的な対策など、わかりやすく示唆に富んだ内容で、参加者から「すばらしかった」「胸の中にあったもやもやが晴れた」「これからの道筋を教えてもらった」などの声が聞かれました。何より、先生の子どもに対する暖かい『まなざし』がとても印象的でした。早稲田出身タレントの持ちネタ(「そんなのかんけーねぇ〜」)にあまり反応が無かったときは「あれっ?」という感じでしたが、随所にさりげなくユーモアが入り、会場の空気はとても和みました。

たくさんの方が来てくれました!!

 一番印象に残ったのは、『(その国に)定住する子、一時的に滞在する子で区別するのではなく、どの子にも「複数言語で成長した自分」ときちんと向き合わせ(意識をもたせ)、複数言語との距離感を調整する力を自分で持てるように(サポート)することが、アイデンティティ形成にもつながる』という指摘でした。
 確かに定住する子は、生きる軸は見つけやすいです。進学、就職、そのためにはどの言語が必要か、何をしなくてはならないかなど、具体的に描くことができます(もちろんそれは並大抵のことではありません。想像を絶する苦労です)。指導者も腰を据えて指導するでしょう。母語に対する姿勢も決まってきます(必要ないというのは困りますけど)
 しかし滞在型、つまり2〜3年外国で過ごす子は、必死になって勉強した言語は帰国したら必要ない(から忘れてしまう)、外国にいる間どうしても母語がおろそかになる。どっちつかずで何とも中途半端な状態になってしまいます。いつか「あの苦労はなんだったんだろう」と思うかもしれません。加えて多くの親は、そんな子どもの状態を理解しきれない(自分に経験がないのだから)。
 川上先生の言葉を聞いて、私は滞在型の子どもに対する時、心のどこかに「この子は数年したら帰国するんだから・・・」という気持ちがあることを痛感しました。でも、それは全く持って私の方の都合なんですね。子どもにとって、どんな1年、どんな2年でも、本当に大切な時間です。おろそかにして良いなんてことは絶対にありえない。

 最近、小学校の4〜6年をアメリカで過ごしたわが子(今は20歳を超えた立派な(?)大人になっています)から、こんなことを言われました。
「自分のホームタウンはアメリカのあの町だと思っている。それくらい自分には、あの体験は強烈だった。私のことを見ても、子ども時代の数年間の経験が、その子にどれほど大きな影響を及ぼすかわかるでしょ。U18の子どもたちにも、そういう子はきっといるよ」
 
 その子の中に「複数言語で過ごした時代」というのは必ず残り、むしろ大きな影響を及ぼしている。だからこそ、それに向き合える心を育てる(支援する)べきだという川上先生の言葉は、まさに私に向かって投げかけられたものだったのかもしれない・・・(