2012年9月4日火曜日

これが僕の生活だから

 ヤッチャルは日本語教育国際研究大会名古屋2012でポスター発表を行った(前回のブログ写真)。タイトルはとっても長くて「「定住型生徒」の生活環境から見る日本語の習得状況に関する考察ー中学就学年齢で来日した子どもに対する調査・観察からー」という。発表当日、同じ問題意識を持つ多くの方々と交流を持つことができた。感謝である。

 この発表では、中学就学年齢(11〜14才)頃に来日し、その後定住する予定の8人の子どもの日本語力を調査した(滞在1年以上)。調査には日本語能力試験N4、PVT-R絵画語い発達検査を用いた。詳しい内容は別の機会に譲るが、結果として「来日以降、日本の学校にきちんと通っている子は(そうでない子に比べて)日本語が上達している」傾向が浮かび上がってきた。学校に通えば、いやでも日本語漬けになる。学校に通っている子の方が日本語がしっかり上達するというのは、当たり前といえば当たり前すぎる結論だ。しかし、日本語が何もわからない子どもたちが、どうしていやにならず(拒否せず)日本の学校に毎日通うことができたのか?これは、もう少し突っ込んで考える必要がありそうだ。

 そこでU-18の出世頭(?)VT君に聞いてみた。来日1年足らずで定時制高校合格の実力者である。この夏は母国へ里帰りしてきた。ニューファッションとともに、アジアスタイルの将棋、母国の高校の教科書(数学)、母語のぺーパーバック(アメリカ小説の翻訳もの)を持ち帰ってきた。友達と盛大な誕生パーティーもした。照れた顔には満足感と安堵感があふれている。
「1年前、日本の中3に入った時のこと覚えてる?日本語何もわからなかったでしょ。どんな気持ちだった?」
「早く帰りたかった」
「家へ。それとも母国へ?」
「家だよ。母国に帰れないことはわかっていたから考えなかった」
家族の都合で来日し、定住予定だったので初めから覚悟ができていたのだろう。
「とにかく毎日学校へ通ったよね。結局1年間、欠席は1日だけだった。どうして通うことができたんだろう?日本語わからないし友達もいないのに」
「家に帰っても誰もいない(両親ともに仕事)からつまらないよ」
「でも、家でパソコンしたり、ゲームする方がおもしろいんじゃない?実際にそうなっちゃってる子、何人もいるよね?」
「パソコンは目が痛くなるし、母親が厳しいからそんなにやらせてもらえない。ゲームばっかりしててもつまらないよ」
「母国にいたとき、学校はとても楽しいところだった。毎日勉強したり、友達としゃべったり。だから僕にとって学校って毎日行くところだったんだよ。それが僕の『生活』だったんだ。そう簡単に変えられないよ!だから今でもこれ(毎日学校へ行く)が僕の『生活』なんだ。それに中3では部活ができなかったけど、今はやっている。9月にも試合があるんだよ!!
 来日前から身についていたきちんとした生活習慣と学習習慣。しっかりした親子関係。加えて今回の里帰りでもわかる豊かな人間関係。友達が今でも暖かく迎えてくれるというのは、彼を支える大きな柱のひとつだろう(→本ブログ『感動したことに感動した』参照)。

 それにしてもこの『生活』という言葉、とても深いものがある。こんな言葉が使えるようになるなんて・・・1年半彼とつきあって来たが、感慨無量!!!(

マイナスイオン!!(太田川源流の森20120817)