2013年1月31日木曜日

『無視』したんだよ・・・

 このところ、子どもたちは本当に元気です。1月29日の活動も出席者16人。ヤッチャル一同(この日は5人)ぜーぜーはーはー(笑)です。

 前回「宿題がない」と涙目だったA君。この日は上機嫌で宿題をやっていました。「先生に手紙渡したの?」「うん!!!」よかったね。でもよく見るとその宿題は割り算の筆算がズラリ並んでいるだけ。どうやら“日本語が必要な宿題”はまだの様子です(溜息)。

 さて、今日の話題は『無視』です。なんか聞き捨てならないですねえ・・・
発端は低学年男子(1、2)の会話です。
男1「Z君はいつもうるさいんだよ。今日は帰りに僕のこと手でぼんっ!て押してきた」
男2「ぼくもやられたよ。だからZ君のことはほっといて、二人で走って帰ってきた」
男1「そうだよ。僕たちZ君のこと、無視したんだ!
そこへ割って入ってきた高学年男子(男3)
男3「そうだよ、ぼくも時々あいつのこと無視するよ」
さらにもう一人の思春期男子(男4)
男4「無視ってなに?」

う〜ん無視とは、あまりいい言葉ではないですねえ・・・
無視は日本語能力試験(旧)では2級の語彙です。普通に考えれば、日本に来て1年に満たない、しかも低学年の子が使いこなせる言葉ではないでしょう。でも、この状況(シチュエーション)は、子どもの世界では頻繁に起こります。敏感にキャッチしなければ生きていく(?)ことはできません。まさに子どもにとっては死活問題!!まず初めに状況があって、そこにまさにツボにはまる言葉がある!!こうなればしめたもの。子どもたちは、確実にこの言葉を自分のものにしました。
 
 実は、男4の質問には、こう答えました。
「Z君と男1.2は3人で学校から帰っている。2人はそれがわかっていたのに、意地悪されたから、Z君のことがいやになった。だから、わざとZ君がいないように行動(置き去りにして逃げた)した。このわざとというところが大事なんだけど・・・わかる?」
いやはや難しいですね。でも男1、2には、何の説明もいりません(あの状況が頭にあるのだから)
 
 子どもたちの語彙を考えるとき、(大人標準の)難易度が当てはまらないことは、よくあります。私はしょっちゅう「あんた、なんでこんなことばがわかるの?」なんて驚いています。そういうのは、ほとんどこの無視のような、言ってみればサバイバル語彙です。

 そういえば川上先生(早稲田大学)の講演にありましたね。子どもが言葉を学ぶ時とは

子どもにとって意味のある場面で、意味のある内容を、意味のある人へ


 この無視は、子どもたちにとって本当に意味のある言葉=生きた日本語だったのではないでしょうか。ホントに1級、2級というレベル分けなんか、子どもには『かんけーねえ〜!!』です。
 とはいえ男4は、今まで無視されたことがなかったんでしょうかねぇ(

2013年1月23日水曜日

ぼくだって宿題がしたいんだよ!!

 昨日(2013/01/22)は定例活動でした。早稲田大学の川上先生の講演(前回の書き込み)を聞いて、ヤッチャルメンバーは何となく気持ちが高揚していましたが(私だけかな??)、それがわかっていたのか、15人もの子どもたちがやって来て、元気で活発でうるさすぎるくらいの活動になりました。

 そんな大騒ぎの中で、何となく元気がなかったのが小3のA君。いつもは宿題を持ってきて、さっさと片付けてから遊び始めるのに、手持ちぶさたな様子。留学生のIさん(前々回登場)が聞いたら、どうやら担任から宿題を渡されていないらしい。A君曰く
「先生は『日本語が難しいから、君はやらなくていいよ』って言った。だから、ぼくの宿題はないよ」
必死になって訴えるA君はちょっと涙目になっています。そこで、改めて彼に
「みんなと一緒に宿題したいよね?」と聞くと、こっくりうなづきます。
「でも自分だけでやるのは大変だよね?」これもうんとうなづきます。
「そうだよね。でもやれるところだけでもちゃんとやった方がいいし、わからなかったらU18に来て一緒に勉強すればいいんだから、ちゃんと学校の先生に宿題もらおうか?」
A君は、「U18で一緒に勉強」という言葉を聞いたとき、本当に!!にっこりしてくれました。その表情に私は驚いたのですが、同時にたいへんうれしかったです。そんな風に思ってくれていたんだ!!

 「君にはまだ無理だから、宿題は出さないよ。この宿題はやらなくてもいいよ」
実はこれは、外国人の子どもに対して陥りやすい落とし穴です。日本の学校だけでなく、どこの国の学校でも見られます。よかれと思っての配慮の時もあるでしょうし、単にめんどくさいということもありえます。今回も良い方にとらえれば、先生はやれないものを渡してその子が苦しんでしまうのを避けようとしたのかもしれません。まじめな子ほど、自分の力とかけ離れたものでもやろうとしてもがいてしまいます。それでも、クラスのみんなが宿題をもらう中で「君はやらなくてもいいよ」と言われたら、子どもの心は傷ついてしまうでしょう。何より、その子は学ぶ機会を奪われてしまいます。
 クラス全体を見る担任教師にとって、一人の外国人の子どもに「日本語力に配慮して、その子にあった宿題を出してください」というのは、なかなか大変な仕事かもしれません。それでも「やれるところだけでもやろうね」「君はこれ(できる宿題)をやろうね」など、ちょっと気をつけてくれないかなあ。きちんと説明すれば子どもはわかってくれるはず。

 と言うことでA君は手紙を書きました。
「〜〜先生へ。ぼくもしゅうくだいがしたいです。ぼくにもしゅうくだいをだしてください。Aより」(宿題の表記に「う」の音が入っていました。正しく書くのは難しいね!)
先生にA君の気持ちが伝わることを祈っています(



2013年1月21日月曜日

年少者日本語教育指導者のための出前講演会

 2013年1月20日、早稲田大学の川上郁雄先生が東広島に来てくださいました。タイトルにあるように『出前』講座です。本当に有り難いことでした。豊富な具体例(子どもの作文など)をまじえての説明、困っていることへの具体的な対策など、わかりやすく示唆に富んだ内容で、参加者から「すばらしかった」「胸の中にあったもやもやが晴れた」「これからの道筋を教えてもらった」などの声が聞かれました。何より、先生の子どもに対する暖かい『まなざし』がとても印象的でした。早稲田出身タレントの持ちネタ(「そんなのかんけーねぇ〜」)にあまり反応が無かったときは「あれっ?」という感じでしたが、随所にさりげなくユーモアが入り、会場の空気はとても和みました。

たくさんの方が来てくれました!!

 一番印象に残ったのは、『(その国に)定住する子、一時的に滞在する子で区別するのではなく、どの子にも「複数言語で成長した自分」ときちんと向き合わせ(意識をもたせ)、複数言語との距離感を調整する力を自分で持てるように(サポート)することが、アイデンティティ形成にもつながる』という指摘でした。
 確かに定住する子は、生きる軸は見つけやすいです。進学、就職、そのためにはどの言語が必要か、何をしなくてはならないかなど、具体的に描くことができます(もちろんそれは並大抵のことではありません。想像を絶する苦労です)。指導者も腰を据えて指導するでしょう。母語に対する姿勢も決まってきます(必要ないというのは困りますけど)
 しかし滞在型、つまり2〜3年外国で過ごす子は、必死になって勉強した言語は帰国したら必要ない(から忘れてしまう)、外国にいる間どうしても母語がおろそかになる。どっちつかずで何とも中途半端な状態になってしまいます。いつか「あの苦労はなんだったんだろう」と思うかもしれません。加えて多くの親は、そんな子どもの状態を理解しきれない(自分に経験がないのだから)。
 川上先生の言葉を聞いて、私は滞在型の子どもに対する時、心のどこかに「この子は数年したら帰国するんだから・・・」という気持ちがあることを痛感しました。でも、それは全く持って私の方の都合なんですね。子どもにとって、どんな1年、どんな2年でも、本当に大切な時間です。おろそかにして良いなんてことは絶対にありえない。

 最近、小学校の4〜6年をアメリカで過ごしたわが子(今は20歳を超えた立派な(?)大人になっています)から、こんなことを言われました。
「自分のホームタウンはアメリカのあの町だと思っている。それくらい自分には、あの体験は強烈だった。私のことを見ても、子ども時代の数年間の経験が、その子にどれほど大きな影響を及ぼすかわかるでしょ。U18の子どもたちにも、そういう子はきっといるよ」
 
 その子の中に「複数言語で過ごした時代」というのは必ず残り、むしろ大きな影響を及ぼしている。だからこそ、それに向き合える心を育てる(支援する)べきだという川上先生の言葉は、まさに私に向かって投げかけられたものだったのかもしれない・・・(

2013年1月9日水曜日

若い力、そして留学生も活躍中

 みなさま、新年明けましておめでとうございます。昨日は、新年最初の活動日でした。元気な子どもたちと一緒に勉強したり、遊んだり、いつもの光景が繰り広げられました。2013年も外国につながる子どもたち、そして日本の子どもたちと一緒に、楽しく活動していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

 このところ、ヤッチャルでは若い力、それも留学生が大活躍です。一人はインドネシアからのUさん、もう一人は中国からのYさん。さらには目下一時帰国中ですが、もうすぐ帰って来て大学院生になるIさん(インドネシア)もいます。3人とも日本語が堪能で、とっても明るい性格です。最近インドネシアの子どもがすごく多いので、Uさん、Iさんの参加は本当に有り難いです。昨日も、国語や算数の文章題を、母語に訳して説明してくれたので、子どもたちの理解がグンと良くなりました。
 ところで、12月に東広島市で行われた日本語ボランティア講習会で、講師の森先生(帝塚山大学)「いい教室の指標は、大学生などの若い世代と外国籍のボランティアの参加度」とおっしゃっていました。ヤッチャルには、活動開始当初から地元の大学生がボランティアとして参加しています。中には卒論に「子どもの日本語指導」を選ぶ学生もいて、貴重な実践の場にもなっています。大学生、留学生がアクティブメンバーというのは、どうやらヤッチャルは、(森先生指標によれば)良い教室(団体)と言えそうです(自画自賛)!!学生、留学生にとっても、大学から飛び出して地元のおばさん(??)たちと一緒になんかするのは、貴重な経験になるでしょう。そしておばさんたちも、若い力からとても良い刺激を受けています。
 
 Uさんに「いつも活動を助けてくれてありがとう」と言ったら、「いえいえ、私の国の子どもたちを助けてくれて、こちらこそありがとう」と返ってきました(