2013年11月19日火曜日

進路相談の季節

 11月も半ばになり、高校入試準備もいよいよ本格化しています。中3のAIちゃんが、中学でもらった県立高校入試日程一覧を持ってきて、説明を求めていました。非漢字圏の外国人の家庭では、この一覧表は何が書いてあるのか全くわからないだろうと思います。AIちゃんのように支援者に聞ける子どもたちはいいですが、支援者がいない子たちはどうなっているのかなあ・・・
 
 先日、ブラジル人の母親が子どもの大学入学資金の件で相談に来ていました。高校は私立大学付属高校。そこから系列大学への進学を希望し合格することができました。しかし経済状況が逼迫していて、入学金が払えないそうです。本人の実力が大学に入学できるレベルであっても、家庭の事情はそれを許しません。私立大学の入学金、授業料など、あらかじめわかっていたことではあります(少なくとも私たちには)。親にも、もう少し見通しや計画性を持って欲しいとも思います。それでも、高校入試の時に中学の先生からどんな説明を受けていたのか、一抹の疑問も残ります。とりあえず目の前の高校に入ることにとらわれ、家庭の経済や大学進学のことまで視野に入れた進学指導が外国籍の子どもたちには十分に行き届いていないのでは・・と思わされました。
 
 2年前に日本の中学を卒業したKI君。最近「高校に行く」とはっきり決めたらしいです。そうなると、中学の先生に書類等書いてもらわなければなりません。でも彼の場合、書類を書いてもらっても、入試当日スッポかすという可能性がゼロでは無い・・・彼の気持を今後数ヶ月間、しっかり持続させるにはどんなことができるかなあ・・・彼の今までにない真剣な表情を見ながら考えました。そして
「夜早く寝て、朝しっかり起きて、明るいうちに勉強!」と檄を飛ばしたところ、
「寝ようと横になると、いろいろなことを考えて寝られなくなる・・・」
「どんなことを考えるの?話すとスッキりすることもあるよ」
「いろいろあるよ・・・。でも言ってもしょうがない・・・オレ、お父さんとお母さんが生きているから、これまで生きてきたようなもんだよ。二人がいなかったら、とっくに死んでる・・時々死んだほうがいいなって思うことあるけど、両親が生きているからね。だから死ねない・・・」
 彼はついこの前まで、昼夜逆転していてノーテンキにふらふらしていました。でもそれは、わたしたちにそう見えていただけで、心のなかは嵐が吹き荒れていたのかもしれません。最近日本語も上手になって、ほんの少しバイトもして、ちょっとは社会の空気に触れたことで、自分を客観視し、そして自分を大切にできるようになったのでしょうか。それにしても、彼の言葉は重い、です。
  
 もうひとり、久しぶりに顔を見せたのがTC君、彼は定時制高校に通っています。最近志望を「手に職」から「理工系大学進学」に切り替えたそうです。これは本人というより親族の希望とのこと。子どもたちは自分の境遇をよく理解していて、力になってくれた人の期待を裏切りたくないと健気に思うようです。その気持を大切にしたいけれど、そして親族の気持ちもよくわかるけど、現実は厳しい・・・
 ことばのハンデがある分、日本語を母語とする子たちよりもっと勉強しないといけないんだ・・という気持ちをもたせるのにはどうしたらいいのでしょうねえ・・・ とにかく「寄り添う」ことしかできないかなあ・・・

集中!!

2013年11月18日月曜日

『がんばったで賞』を贈りました

 この時期恒例の外国人スピーチコンテスト(東広島市)11月17日に10回目が無事終了しました。10回!!なんだかんだあっても結構続いていますね。
 
 今年はインドネシア、アメリカ、中国、バングラディシュ、ドイツ、ブルネイ、韓国 の7ヶ国17名の参加がありました。祝!参加人数記録更新。さらに国籍は7ですが、民族ということで言えば10以上になるでしょう。東広島には、多様な人たちが暮らしているんだなあと、改めて実感しました。テーマも、日本語学習、自分の人生、自分の国の紹介、日本の古典、アルバイトなどバラエティー豊か。皆さんしっかり練習していて、スピーチがよどみなく流れ、完成度が高かったです。開始前、17名全部聞くのは結構大変かも?と一抹の不安が頭をよぎりましたが(ごめんなさい)、まったくの杞憂でした。
 
 このスピーチコンテストでは、毎年、広島大学の日本語教育学科教授を審査員長に、5人の審査員が厳正に審査し、最優秀賞、優秀賞、国際交流会長賞を選出します。今年はこれに加えて、新たな試みとして『がんばったで賞』を2名の方に贈りました。
 
 昨年、東広島市教育文化振興事業団に登録する国際交流ボランティア(詳しくはコミュニケーションコーナー)の有志は、多文化共生活動の一環としてインターナショナルバザーを開催し大盛況となりました(その様子は本ブログでも報告しています)。その収益金を、更なる草の根国際交流に役立てようというのが、この賞の由来です。
 ということで、国際交流ボランティア有志の会のメンバーは、全員のスピーチ終了後、審査員とは別に某所に集まり、厳正な(??)審議を行いました。とはいうものの『がんばった』とは、いったい何をがんばったのか?日本語、生活、人生、スピーチ・・・どの方も皆、本当にがんばっていました。あの人にもあげたい、この人にもあげたい、できればみんなにあげたい・・・

 表彰式では、皆さん「やりとげた」というさわやか感が溢れていました。本当にみなさんおめでとうございます!!
 
そして、今年もやります!!
多文化共生『インターナショナルバザー』
日時:12月8日(日)11:00スタート
場所:東広島市にあるくぐり門(JR西条駅近く、酒蔵通りにあります)
お近くの方、来てくださいね

 第10回東広島市外国人スピーチコンテスト表彰式
祝!!がんばったで賞
祝!!がんばったで賞

2013年11月11日月曜日

きついけど・・・安全第一

 急に寒くなった。こうなると(??)、カキの季節である。広島県沿岸でも10月半ばから水揚げがはじまり、今、カキ打ち場は大いそがしとなっている。

 そんなカキの産地で、この秋から日本語教室をやっている。なぜそんなところで?と思う方もいるかもしれない。いや、なるほどと思う方もいるだろう。今や、瀬戸内海沿岸のカキ産業は、外国人なしには成り立たない。しかし、その現実が知れ渡ったのは、悲しいことだが、あの江田島の事件である。
 
 日本語教室には、カキ産業で働く中国人がやって来る。常連は二人。どちらも照れ屋なので、話すのはなかなかうまくいかないが、聞くことはそれなりに上達しているようだ。とにかく、聞くことがある程度できれば、仕事は何とかなるという。それで十分なのに、きつい仕事の後、日本語の勉強に来るご両人には頭が下がる。

 そんな二人に刺激されたのか、前回の教室には3人の新顔が来た。会話はまだ無理なので、まずは現場でどんな日本語をよく耳にするかを聞いてみた。
「してみ、かしてみ、やってみ」
「うるさい」
「ばか」
「あぶない」
次から次へと出てくる。よほど毎日言われているのだろう。それにしても、こんな言葉が乱れ飛ぶ職場、やはり海の仕事の言葉は荒いなあと思う。特に「 〜〜み」(してみ=してごらん)というのは、かなりきつく感じられるようだ。初めは何だかよくわからなかったけど、今はそのニュアンスがわかるから、あまりいい気はしないという。それでも「慣れた!」と言って笑い飛ばしている。でも、内心はしんどいだろうな。言われ続けたら、腹も立つだろう。やめてくれとは言えない・・・

 実は日本語教室を始める前に、地元の漁業協同組合長と話し合いを持った。 日本語教室をともにやっていこうというくらいだから、外国人には人一倍愛情を持っている人だ。その彼が言うには
「俺たちは、バカ!!とか、なにやっとる!!とか、きつい言葉を使うよ。何も知らない人が聞いたら、顰蹙ものかもしれんね。でも 海の仕事は、ちょっとしたことが命取りになるからね。だめですよ、こうやってください、見ていてください、なんて言ってる間に海に落ちちゃうよ。とにかく安全第一!!そのために、こんな言葉になるんだよ。決してにくくて言ってるわけじゃないんだ。そこの所をしっかり伝えてくれよ」

 組合長の言葉には説得力がある。そこをわかってもらうのに必要なのは、やはり人間関係、信頼を構築することだろう。日本語教室で彼らに真摯に向き合うことで、少しでもお役に立てればなと思っている(
 
瀬戸内海のカキ筏(これは岡山県沿岸)

 

2013年11月5日火曜日

悔しくないの!!?

 日本語を母語としない子どもたち。特に高学年から日本に来て、短期間で中学へすすんだ場合、日本語で学習するのは、よほどのサポートがないと困難だ。学校で日本語指導がなされたとしても、家に帰って自習できる子はまずいない。そんな子どもに、手を貸したつもりになっているのだろうか。最近、あらかじめ宿題の答えを渡し「写してきなさい」という指導にしばしば出くわす。

 U18にも、そのような指導をされている子がいる。中1の男の子だ。最近、あまり顔を見せないから気にかかっていたが、先週、めずらしくコミュニケーションコーナーで漢字の書き取りをしていた。彼は一生懸命手を動かしながら
「先生、ここの答えって、どこに書いてあるの?」
ワークブックの欄外に書いてある正答の場所を聞いてくる。25ページの問題の答えは25から26ページの欄外にまたがっているので、回答欄と正解の問題ナンバーが、なかなか一致しないようだ。彼に聞いてみた。
 「誰が、答えはここって教えてくれたの?」
「宿題を出した先生だよ。ここからここまで、しっかり写してきなさいって言われた。その先生は、テストの時も僕にだけ答えをくれるよ。僕は一番後ろの席に座っているから、答えもらっても、みんなあまり気がつかないよ。それを見て書くから、 僕はいつもテスト100点だよ」

 ありえない!!いったいどういうつもりなんだろう。そりゃ、中学生の漢字の書き取りは大変だ。彼の場合、自力ではほとんどできないだろう。きっといつも0点では、嫌気がさしてくるだろうな。それなら「せめて写してくれれば」ということか??それにしても・・・しばらくすると
「よ〜し、宿題終わり!!早く終わって楽だねえ」
ニコニコして片付けを始めた 。そんな彼にだめもとで聞いてみた。
「この言葉はどういう意味?」
「意味なんて知らないよ。写してるだけだもん」
「そんなんじゃ、授業わからないでしょ?つまらなくない?」
「いいんだよ。宿題簡単に終わるから」
手を動かして、ノートを埋めればそれが宿題だと思っている。楽に早く終わるのは、ラッキーなのだ。でも、これではなんにも覚えない。それ以前に、学習習慣が身につかない。子どもにとって一番大事なのは、学習習慣、そして考える力をつけることではないのか?

それ以上に見てて歯がゆいのは、答えをもらってニコニコしている彼だ。こんなことされて、プライドが傷つかないの?自分だけ特別扱いされて、できないと決めつけられて、悔しくないの?でも、これは彼の責任ではないだろう。家族も教師も、そして私たちも、この子に対して、必要な、そして満足なサポートをしてこなかった。そんな中、彼の感覚は麻痺してしまったようだ。それでも、本当は彼から先生に向かって叫んで欲しい。「馬鹿にしないでくれ!!」と(

トリックorトリート!!