2017年1月18日水曜日

わたしは何語で生きていくの・・・?

おくればせながら,明けましておめでとうございます.本年もよろしくお願いいたします 
 
 10才というのは本当に難しい年頃だ.バイリンガルを知っている人ならピンと来るだろう・・・

 仮にモミジちゃんと呼ぶことにしよう.現在小学校4年生.中国から日本に来て半年たった.誕生日の関係で中国では日本より1学年上だった.学力,観察力,認知力・・すばらしい『頭』の持ち主だ.しっかりと学習を積み重ねてきたのだろう.学年相当の算数は完璧,他の教科も漢字を頼りに内容はかなり理解している.おしゃべりもどんどんうまくなっている.それでもU18では,中国語堪能のをつかまえて中国語でしゃべりまくっている.そして甘えたり,すねたり,子どもらしいといえば子どもらしいのだが,ちょっと気になる面も多かった.そんなモミジちゃんが苦しい胸の内をすこしだけ明かしてくれた.

 モミジちゃんは,家では日本語を使っている(使わざるを得ない).これは日本に来た経緯からいって致し方がないところである.学校ではもちろん日本語である.

 一方,U18に多い留学生の子どもたちは,家では母語を使っている.学校で日本語の荒波にもまれていても,帰港(家=母語)すれば栄養と休養たっぷりである.

 モミジちゃんはこう訴えた.
<自分の中国語について>
自分の中国語がどんどん下手になっている.中国人の友だちや,中国語のできる家族の話していることがわからない(ことがある).一度きちんと(文法を)組み立ててからでないと話せなくなっている.今までのように自然に中国語がでてこない.本を読んでもわからない漢字が出てくる.中国語の本が読みたいけど簡単に手に入らない.本を読みすぎると目が悪くなると言われる.中国語は時々携帯電話で見るだけだ.

<日本語はどうか?>
家でみんなが日本語で話している.よくわからないから黙って聞いていることが多い.教室でも,日本語が難しくて何をやっているかわからないことがある.発言もうまくいかない.

 ということは,モミジちゃんは家でも学校でも,思いっきり話せる場を全くもっていないということだ.帰る港がないのだから頭も心も安まらないだろう.U18でを相手にとめどなく中国語で話す理由はこれだったのだ.

 本ブログでおなじみのVT君も,実は家庭環境は同じだ.同年代の仲間もいなかったので,母語を使う機会はモミジちゃん以上に少なかった.ただ彼は来日時に15才だった.10才と15才,この差は大きい.母語の定着度が大きく違うし,インターネットなどを使いこなして情報を得る力も格段に発達している.何より人間としての自立度がちがう.自分の行動を自分で見極めて決定する能力ができていた.

 ところでU18だけでなく,ヤッチャルメンバーが関わっているおとなの日本語教室には中国人がたくさん来る.モミジちゃんも毎週来ているので顔なじみになっている.
「モミジちゃんと中国語で話す人はたくさんいるよ.中国語でおしゃべりしていいよ」
モミジちゃんの答えは
「よく知らない人と話すのは緊張する(こわいよ)」

 そりゃそうだよね.10才の子どもが,おとなと気軽に話せるわけがない.でも,それ以外に中国語を話す機会はないんだよねえ・・・

 10才で自分の2言語能力を,ここまで認知しているというのはおどろきである.モミジちゃんの苦悩は,すばらしい頭脳の持ち主ならではともいえる.
 でも10才の子どもはこんな苦労をしなくてもいい・・・

 モミジちゃんは追い打ちをかけてきた.
「ほんとうは,こんな愚痴はあまり言いたくない・・・」

 そんなこと言わないでいいんだよ!
 U18に来たら,どんなことでも話していいんだよ!
 私たちは聞いてあげることしかできないけど
 聞いて寄り添ってあげたいと思っているんだよ!

2017年お正月は東京で過ごしました