2011年10月12日水曜日

子どもの苦労をわかってよ

 AI君は元気な中学生.日本に来て1年半が過ぎた.U-18中学生組の中で,ただ一人運動部に所属している.チームスポーツ,毎日練習,学年全員(一ケタ)でどうにかチームが組めるという部活である.これでは,いや(?)でも日本の学校にどっぷり浸からざるを得ない.友だちが出来ず孤立しがちな外国人の子どもの中では,異色の存在だ.
 昨日は秋休みだったので,いそがしい彼が久しぶりにU-18にやってきた.なんだか浮かない顔をしている.前期期末テスト(9月)の成績のことで,お父さんに怒られたと言う.彼にとってお父さんは絶対の存在である.テストは得意の英語(母国で学習経験あり)は90%以上,数学,社会,理科は30〜40%.来日1年半の中学生ということを考えれば,それほどひどい点数ではない.「よくやっているね」とほめてあげてもいい(ほめ方に注意が必要ではあるが→本ブログ9/14参照).運動部で鍛えられた(?)せいか,日本語の力も知らない間に驚異的にアップしていた.話す方はモーレツな早口のせいもあって,まだまだの部分も多いが,『みんなの日本語』の文法チェックをほぼ完璧に解答したし,動詞の変化もバッチリだった(非常に興味深い部分なので,この話はまた改めて書いてみたい).そんな彼でもどうにもならないのが国語だ.お父さんは「せめて50点とれ!」と言うそうだが,今回の彼の点数からは,まったくかけ離れた目標設定である.
 AI君のお父さんはなかなか教育熱心だ.お父さんは日本で苦労はしただろうが,今では自営業を切り盛りする,いわば成功者だ.努力を重ねたお父さんから見れば,あの点数は不甲斐ないのだろう(もちろん心配なのだが).経済的に安定している(AI君に家庭教師をつけている)こと,男の子への期待など,彼への期待値が高いということもある.
 しかし,来日1年半,日本に来るまで漢字とは無縁.これで『中学の国語』で50点とれと言うのは無謀だ.現実が全く見えていないと言わざるを得ない.これでは子どもがかわいそうだ.
 先日(10月1日)の講演会でも,「バイリンガル環境に暮らし,母語でない言語で学習する子どもたちが抱える大変さと危険性」は,意外に知られていないと実感した.指導者(学校の教師も含めて)がそれを知らないことは重大な問題だが,それにも増して親が知らないというのは深刻な問題だ.親自身が我が子を追い詰めてしまうことになりかねない.もっとも知っていたら,もう少し(2国間の行ったり来たりについて)考えるかもしれないけれど・・・(