2013年11月11日月曜日

きついけど・・・安全第一

 急に寒くなった。こうなると(??)、カキの季節である。広島県沿岸でも10月半ばから水揚げがはじまり、今、カキ打ち場は大いそがしとなっている。

 そんなカキの産地で、この秋から日本語教室をやっている。なぜそんなところで?と思う方もいるかもしれない。いや、なるほどと思う方もいるだろう。今や、瀬戸内海沿岸のカキ産業は、外国人なしには成り立たない。しかし、その現実が知れ渡ったのは、悲しいことだが、あの江田島の事件である。
 
 日本語教室には、カキ産業で働く中国人がやって来る。常連は二人。どちらも照れ屋なので、話すのはなかなかうまくいかないが、聞くことはそれなりに上達しているようだ。とにかく、聞くことがある程度できれば、仕事は何とかなるという。それで十分なのに、きつい仕事の後、日本語の勉強に来るご両人には頭が下がる。

 そんな二人に刺激されたのか、前回の教室には3人の新顔が来た。会話はまだ無理なので、まずは現場でどんな日本語をよく耳にするかを聞いてみた。
「してみ、かしてみ、やってみ」
「うるさい」
「ばか」
「あぶない」
次から次へと出てくる。よほど毎日言われているのだろう。それにしても、こんな言葉が乱れ飛ぶ職場、やはり海の仕事の言葉は荒いなあと思う。特に「 〜〜み」(してみ=してごらん)というのは、かなりきつく感じられるようだ。初めは何だかよくわからなかったけど、今はそのニュアンスがわかるから、あまりいい気はしないという。それでも「慣れた!」と言って笑い飛ばしている。でも、内心はしんどいだろうな。言われ続けたら、腹も立つだろう。やめてくれとは言えない・・・

 実は日本語教室を始める前に、地元の漁業協同組合長と話し合いを持った。 日本語教室をともにやっていこうというくらいだから、外国人には人一倍愛情を持っている人だ。その彼が言うには
「俺たちは、バカ!!とか、なにやっとる!!とか、きつい言葉を使うよ。何も知らない人が聞いたら、顰蹙ものかもしれんね。でも 海の仕事は、ちょっとしたことが命取りになるからね。だめですよ、こうやってください、見ていてください、なんて言ってる間に海に落ちちゃうよ。とにかく安全第一!!そのために、こんな言葉になるんだよ。決してにくくて言ってるわけじゃないんだ。そこの所をしっかり伝えてくれよ」

 組合長の言葉には説得力がある。そこをわかってもらうのに必要なのは、やはり人間関係、信頼を構築することだろう。日本語教室で彼らに真摯に向き合うことで、少しでもお役に立てればなと思っている(
 
瀬戸内海のカキ筏(これは岡山県沿岸)

 

2013年11月5日火曜日

悔しくないの!!?

 日本語を母語としない子どもたち。特に高学年から日本に来て、短期間で中学へすすんだ場合、日本語で学習するのは、よほどのサポートがないと困難だ。学校で日本語指導がなされたとしても、家に帰って自習できる子はまずいない。そんな子どもに、手を貸したつもりになっているのだろうか。最近、あらかじめ宿題の答えを渡し「写してきなさい」という指導にしばしば出くわす。

 U18にも、そのような指導をされている子がいる。中1の男の子だ。最近、あまり顔を見せないから気にかかっていたが、先週、めずらしくコミュニケーションコーナーで漢字の書き取りをしていた。彼は一生懸命手を動かしながら
「先生、ここの答えって、どこに書いてあるの?」
ワークブックの欄外に書いてある正答の場所を聞いてくる。25ページの問題の答えは25から26ページの欄外にまたがっているので、回答欄と正解の問題ナンバーが、なかなか一致しないようだ。彼に聞いてみた。
 「誰が、答えはここって教えてくれたの?」
「宿題を出した先生だよ。ここからここまで、しっかり写してきなさいって言われた。その先生は、テストの時も僕にだけ答えをくれるよ。僕は一番後ろの席に座っているから、答えもらっても、みんなあまり気がつかないよ。それを見て書くから、 僕はいつもテスト100点だよ」

 ありえない!!いったいどういうつもりなんだろう。そりゃ、中学生の漢字の書き取りは大変だ。彼の場合、自力ではほとんどできないだろう。きっといつも0点では、嫌気がさしてくるだろうな。それなら「せめて写してくれれば」ということか??それにしても・・・しばらくすると
「よ〜し、宿題終わり!!早く終わって楽だねえ」
ニコニコして片付けを始めた 。そんな彼にだめもとで聞いてみた。
「この言葉はどういう意味?」
「意味なんて知らないよ。写してるだけだもん」
「そんなんじゃ、授業わからないでしょ?つまらなくない?」
「いいんだよ。宿題簡単に終わるから」
手を動かして、ノートを埋めればそれが宿題だと思っている。楽に早く終わるのは、ラッキーなのだ。でも、これではなんにも覚えない。それ以前に、学習習慣が身につかない。子どもにとって一番大事なのは、学習習慣、そして考える力をつけることではないのか?

それ以上に見てて歯がゆいのは、答えをもらってニコニコしている彼だ。こんなことされて、プライドが傷つかないの?自分だけ特別扱いされて、できないと決めつけられて、悔しくないの?でも、これは彼の責任ではないだろう。家族も教師も、そして私たちも、この子に対して、必要な、そして満足なサポートをしてこなかった。そんな中、彼の感覚は麻痺してしまったようだ。それでも、本当は彼から先生に向かって叫んで欲しい。「馬鹿にしないでくれ!!」と(

トリックorトリート!!

2013年10月25日金曜日

ちょっと(?)うれしかったな!!

 秋が深まってきましたね。このところ、すっかりご無沙汰してしまいました。その間、本当にいろいろなことがあり、ヤッチャル一同、ずいぶん振り回されましたが、子どもたちは相変わらず元気です。今日は、そんなU18ティーンエージャー組の様子をつらつらと書いてみますね。

 本ブログNo1の出演率を誇るVT君。ちょっと前にルービックキューブ(皆さん、ご存じですか? の世代にとっては懐かしいですけどね)にはまりました。これが好きなのは、理系頭の子が多いですね。VT君は超がつく理系人間。同じ定時制高校に通うSC君もそうですが、彼も相当の熟練者で、4×4なら1分もかからずに全6面クリアーします。どうやらそれを見て、VT君は刺激されたらしい。通販で苦労して(メールアドレスや支払いのことなど)7×7を買い求め、なんと1時間で全面クリアーしました。あ〜あ、やっと手にした“3000円”なのに・・・(勉強にもその集中力で取り組みなさい!!)
 そのVT君、バトミントンでついに優勝しました(広島県の定時制高校の大会)。やったね!!恥ずかしそうに携帯電話を目の前に突き出すので、何かと思ったら、優勝カップを抱えた彼の姿が写っていました。この大会は残念ながら全国大会にはつながりませんが、来年春には、地区大会→県大会、そして全国大会を目指すそうです。

 そして、最近劇的な変化を遂げたのがKC君です。彼は中2の終わり頃来日し、中3で不登校、高校入試もままならず、その後何もせずふらふら(?)していました。
 その彼が、とにかく働き始めました。定番(?)の携帯電話仕事で、一日中シールを貼っているそうです。背の高い彼にとって、作業台が低すぎて、首と肩ががちがちになってしまいました(ちなみに、定時制高校に通うSIさんも、同じところで働いています。昼間働き、夜学校、彼女もたくましいです!!)。
 ふらふら(?)していた時、は何度もKC君に電話して、とにかくU18に来なさいと、根気強く誘っていました。それでもなかなか顔を出さず、ヤッチャル一同はやきもき。「いいけげんにしろ〜〜!」という気分になった時もありました。その間、彼はマンガやアニメにはまっていたようです。ちょっとした『きっかけ』(この話は、いつか書こうと思います)で久しぶりにU18に来た時、彼の日本語が劇的に上達しているのに、本当に驚かされました。発音も綺麗で、助詞をしっかり使って、センテンスをきちんと完結しています。VT君でも、このレベルには達していません。
 さらに10/23の日本語クラス(大人対象)では、以前は全く興味を示さず、わからない、できないと逃げていた算数(数学?)に積極的に取り組みました。正負の数の四則計算、文字式の計算、忘れていた(?)通分、約分も、ちょっと教えたらすいすいこなしました。そして
「先生、算数(数学)っておもしろいじゃん。もっと難しいのやろうや!」 
そのときの顔は何とも言えません。 満足感、達成感、そして快感!!わかる、できることがうれしくてしょうがないという感じでした。同じようなレベルで四苦八苦する友達に対しては、積極的に教えて、多少の優越感にひたっていました(これも実は大切なことなんです)。彼に出会ってから約3年、にとっていままでで一番楽しい勉強になったので、なんだかうるうるしてしまいました。本当にこの3年間、が彼を見放さず、どやしつけながらも粘り強く誘ってきたからこそです。この姿勢、根気、子どもに向き合う時に本当に必要な物は何なのか、大いに考えさせられました。
 
 なぜ彼が数学がわかるようになったのでしょうか。もしかしたら、わけのわからない日本語の世界に放り込まれた時、もともとわかっていた算数まで、頭の中に霧がかかってしまったのかもしれません。日本語がわかるようになったら、頭の中が整理できたのか、算数までクリアーになってきたのでしょう。VT君は、もともと身についていた数学が非常にしっかりしたものだったので、むしろそれを頼りに日本語を学んだり、コミュニケーションをとってきました。KC君の場合、算数(数学)の理解度がそこまで達していなかったので、わからない言語(日本語)でやるのには無理があったようです。
 同じようなことは、あの「ご苦労様でした」のAI君にも言えます。彼も日本語力がそれなりのレベルに達してから、数学、そして英語(もともと英語を使う環境にいたのですが、日本に来てから使う機会がなく力ががた落ち)の理解度がよくなりました。

 U18のティーンエージャー組。本当にいろいろなことを引き起こしてくれますが、 いろいろなことを教えてもくれます。子どもを長い目で見守る。KC君は身をもって教えてくれました。これからの彼がどうなっていくか、また見守っていこうと思います(

子どもの世界を描くなら、やはりこの人!!(東京のスヌーピー展にて:この絵は写真撮影可)